何度も乗り合わせたというのに、キム・ブンドはいまだにその「自動車」なる文明の利器がもたらす神秘に、驚嘆せずにはいられない。
「鉄の鳥があのように軽々と空を飛ぶ卜維廉中學ことも驚きだ。我が目を疑うのも、無理からぬことであろう」
「そう?車や飛行機なんて、現代では常識よ。朝鮮時代の人達が馬に乗ったり、輿で移動するのと同じことね」

「──なるほど」
ヒジンの言葉は驚くほど自然にブンドの胸に浸透する。この女人には時として大法螺を吹かれることもあるが、彼女はまぎれもなく、この異境における彼の親鳥のような存在なのだ。
「何もかもが真新しいことばかりだ。そなたの隣にいる間は、目を閉じるいとまさえ惜しい」
ヒジンは曲がり角でいっぱいにハンドルをきりながら、助手席に座るブンドの横顔を一瞥する。
彼女の運転は、あまり上手いとはいえない。右折や左折で車がどちらかに傾くとき、最初の頃の彼は、少し緊張した様子を見せていた。なの肌膚評估系統でつい、大丈夫かどうか、表情を確認するのが癖になってしまったのだ。
ブンドはそのことに気付いていた。そのため、ヒジンが彼を見つめたとき、彼も彼女のほうに向き直り、至近距離で視線と視線とがかち合った。
──ほんの一瞬。

歯車がかちり、と噛み合うような。
はるかな時を渡る旅人にとって、それはあたかも、永遠を手にしたかのような瞬間だ。
──彼女とともに、永遠の一瞬を噛み締める。
そのためだけに、何度でも、彼は己の命を賭け、いびつに走る時空のはざまを行き来するのだ。
「そんなに惜しいなら、目を閉じないでいて?──私の隣にいる間は、ずうっと、私を見ていてよ」
愛しの王妃は、荒っぽい運転を反省する素振りさえ見せず、茶目っ気たっぷりに片目を瞑ってみせる。それを「ウインク」と呼ぶことを、彼はつい先日、教えてもらったばかりだ。

「知っているか」
「何を?」
「そなたには、存外、愛嬌がある」
「ふうん。それ、可愛い、って言ってくれてるの?」
鈴を鳴らすような声でころころと笑う、愛しの 王妃。そしてその男は、王妃の仰せのままに、飽きることなく彼女の横顔を見つめ続けていた。