2016年06月

子供は小さな冒険が大好きである。家の近くにちょっと怪しげな研究所があった。今となっては記憶もおぼろげだが、とにかく入口の看板に「研究所」という文字があったのは記憶に生々しい。敷地も結構広く、コンクリートに覆われた外壁が何とも不気味で、ショッカーのアジトのような雰囲気がムンムンなのである。

僕らは壊れた外壁の下からこっそりと忍びこむ、誰かに見つかれば怒られるというスリル、探偵かヒーローを気取った僕らは夏休みになると毎日のようにこの冒険を繰り返した。男の人には見つかっても大丈夫、優しくしてくれる。でも女の人に見つかるとヤバイ!などといううわさがまことしやかに話され、信憑性を持ってわれわれ仲間の間で情報として交換されていた。

もっとも、僕らの侵入の目的はというと、中にとらわれているヒロインを助けだすわけでも、ショッカーの首領と対決に行くわけでもない、この研究所の広い庭にはまるで森のようにクヌギの木が生い茂っており、僕らの目的はそこに生息する「お宝」カブトムシの奪取であった。
明け方に入ることはまれで、多くは午前中の陽も高くなってからの事だったので大した成果はなかったが、それでも運が良ければこの「お宝」を手にできたのである。これもひとつの冒険。

次なる冒険は今ではなかなか体験できない。当時電車が大好きだった僕はヒマがあると近くの駅に出かけて行っては何時間もぼんやりと電車を眺めていた。男の子にとってなんと気持ちをゆすぶられるものなのか、とはいっても小学生低学年の少年には実際に一人で電車に乗って出か覆新工程けることもかなわない、改札付近に落ちている切符を拾ってはコレクションする以外は、ただやってくる電車を眺めては幸せなひと時を過ごしていた。

ある日、少年にちょっとした冒険のチャンスが訪れた。まず、記憶が確かではないが、この日は平日にもかかわらずなぜか学校が休みであった。僕は朝の8時頃から堂々と駅まで出かけていく、平日の午前中に遊びに行く時と言うのはどうしてあんなに心がときめくのであろうか。「今日は朝から思う存分電車が見られるぞ」と思うと気分は最高である。

駅に到着、するとそこには衝撃の光景が!生まれてこの方見たことのない光景が目に飛び込んできた。

線路を多くの人が歩いているのだ!「いったい何があったんだ」少年は戸惑う、目の前の光景が現実のものと思えず、夢でも見ているかのようだった。

この光景の答えは・・・「ストライキ」
当時は今と違って年に二、三回は労使がもめて交通ストライキがあったのだ。おそらくこの時も四月の春闘の時期だったのかもしれない。この駅はターミナルの一つ手前だったせいもあり、ひとまずターミナルまで行けば国鉄以外の種牙通勤手段が確保できるわけで、通勤のサラリーマンがこぞって線路を歩いてターミナルに向かっているわけだ。ある意味ちょっとのどかな光景でもあり、おそらく現在ではもう不可能なのではないだろうか、何よりストライキ自体がもう何十年と行われた記憶がない。

まずはあのグロテスクなフォルムである。黒光りする背中に長く揺れる触覚、ああ、こうして記述するだけで鳥肌が立ってくる。

次に登場のAmway傳銷仕方である、ヤツは夜行性であるがゆえに、夜になるとコソコソと現れる、暗闇の中で活動しているがゆえに、夜中に台所やトイレに行き、電気を点けた途端に「ギャー!!」という登場と相成るわけである、非常に心臓によくない。

さらには、あの機動性である、あんなに速いヤツはそうはいない、ウサインボルトのごとく高速で徘徊する、いわば「忍者」だ。

それに対してスーパーヒーロー「カブトムシ」は堂々としている、いわば「殿様」だ。
もしカブトムシが「G」のように高速で走ったらその威厳は即座に消え去り、単なる同じ「黒い虫」として世間の「白い眼」に晒されるに違いない。

ヤツは天井にまで現れる、寝ている時にふと天井を見上げると「G」が天井に張り付いていたりすることがある。その瞬間、僕は毛が逆立ち一瞬のうちに全身が凍りつく。その恐怖たるや、「貞子」が一度に10人現れたのに匹敵するものである。
僕は身を固める、というより動けないの企業培訓課程だ。ひとまずヤツの動きを目で追う。天井を逆さまに動き回るという正に黒い「忍者」のごときヤツの動きは人間の能力をその点で凌駕している。

今朝は一匹、半紙に落されたうすい墨のような斑点の美しい白猫が目の前を駆け足で過ぎようとしたから、私はついいつものクールさを忘れ呼びかけてしまった。
「ンワーオ,ンワーオ、ンアアー(ちょっとそこのお嬢さん、ねえ待ってってばー)」

いつもなら道で出くわす猫にはそれとなく近づいていき、とくに興味ありませんよなんて素振りも入り混ぜながらクールな人間を装う。それで向こうもその気なら、
「お、いいよ。今、時間あるし。遊ぶ?」
ってな具合だ。。。心はもう踊り狂っているにもかかわらずだ(笑)
 
それが今日はなんとしたことか。
「ニャオーン,オオーン、(違うって、全然妖しいもんではごさいませんってば!)」

白墨猫は、思わず二、三歩後を追う私を残してみるみる加速し近所の垣根の根元に少し開いたすき間にボーリングの球かというほどあっけなく滑り込んでいった。

ボーリングレーンのあの後ろのとこなんて言うのだっけ。
ガタガタドッチャーンカランコロン、キー、ドッスーン あの騒がしい所? 
名前はどうであれ、見習いたいものだ。
日頃からどんな球でも受け入れるあの口の様に転がってきたチャンスを無駄に逃すことのない心構えでいかねば。
 
もういっそのこと、自分が球になってしまえばもっといい。
どう転がろうが向こうではぽっかり口を開けて私を運命が待っていてくれるのだから。さらにストレートで突き進んでいくような球になれたらなおのこと。
めちゃめちゃ深いこと言っているように聞こえなくもないけど、ここでは単純に猫といつの日かたわむれたいと願う人のほざきなり。

↑このページのトップヘ